2009年11月18日水曜日

再会。

もう何年と逢うことも無かったそいつとの突然の再会に、俺は高揚を通り越した深い感動が体を支配していくのを感じていた。
無邪気にはしゃぐ子供のそれのように、俺は暴雨を気持ち防げれば十分そうな頼りない傘を半ば放り投げるようにして、そいつの元に夢中で駆け寄った。打ちつける雨に傷ついた俺を癒そうとしてくれているのだろうか。聖母のそれにも似た暖かな輝きをこの暗闇に放っていた。

そう、俺は再会したのだ。
「当たりつき自動販売機」に。

感動、という一言では言い表すこと自体が愚かな事なのかも知れない。それほどまでにその再会は俺の心を強く打ち、心臓を熱く鼓動させた。その高揚感は、ひどく傷つき、ひどく疲れ、そして大雨に全身をずぶ濡れにされ、まさに半分自暴自棄となっていた俺自身に光を刺すかのようだった。
その姿を瞳に捕らえた俺は、気がついた時にはすでに傘を投げ捨て、その神々しいお姿に半ば抱きつくようにして、その当たりルーレットのパーツ部分を眺めていた。そしてその機能が今もまだ生きている事を確認できた頃には、俺の右手は懐から財布を取り出し、100円硬貨を取り出すまで作業を進めていた。

「君に決めた!」

誰に聞こえるわけでもない。豪雨と暗闇の中、出歩く人間の姿などこの路地に見受けられるはずもなく、ましていたとしても、大粒の液体が次々とタイル屋根や金属壁やアスファルトを叩きつけるその轟音にかき消され、届く訳なんて無かった。

俺のかじかんだ指先は上段やや左側に位置する「ファンタオレンジ」のボタンを力強く押す。
どこか懐かしさをも感じる効果音の後、商品がトレイに吐き出されると、そいつは簡素過ぎる程のビープ音を高速連打したようなサウンドと共に、そのLEDによって再現されたルーレットを時計回りに回転させる。

俺は商品取り出し口からファンタオレンジを取り出すと、暗闇に光り輝く赤色の軌跡を目で追っていた。もうずぶ濡れだろうと関係ない。俺はこの瞬間を見届ける事が義務を通り越して最早使命のようにさえ感じていた。

最終的に光り輝いたのは、うっすらと色抜きしてある「はずれ」のマークのバックライトだった。

しかしどうしてだろう。これほどまでに気分のよい「はずれ」に、俺は久しく出会っていない気がした。懐かしい、どこか暖かみのあるような、そんなちょっとした淡い期待。
その日、ずぶ濡れになった体を湯船に滑り込ませると、その手にしたファンタオレンジを眺めながら幼い日の頃を思い出していた。

そして翌日。発熱と共に腹を下す、男・旅人、24歳の冬。

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