簡単な事さ。別に特別な技量なんて必要ない。
ただ目前のコイン投入口に数枚の硬貨を投入して、目当ての飲料のボタンを押すだけ。たったこれだけの事でそいつが手に入っちまうんだ、馬鹿でも出来る。
だがそん時の俺にはそんな簡単な事さえも困難に思えたんだ。
冬場、さして寒くない日中を犬と共に駆けていた時の話だ。俺の体はあったまって汗をかきやがる。俺は喉がからっからに乾いて仕方なく自動販売機の前に立ったんだ。
暑いし喉は乾くわ汗はかくわ、そうなりゃ選ぶもんなんて決まってる。
そう、スポーツ飲料だろ、やっぱ。
当然俺もその腹積もりで硬貨を投入してたんだよ。
だけどそこで俺の指が止まっちまった。後はスポーツ飲料下のボタンを押すだけだったのに。
俺は気付いちまった。
おしるこ横のコカコーラの温度表記が「HOT」になっているという事に。
おいおいおい、ちょっとまてよ、なんの冗談だ?
俺は思わず突っ込みを入れちまったよ。
まず大体にして、おしるこの横にコカコーラが並んでるだけでもレアケースだってのに、しかもホットと来た、これはもう何かのフリとしか思えなかったね。
昔の俺ならスルーしてさっさとスポーツ飲料を買っていただろうね。何しろ喉がからからだ、一刻も早く潤いを感じたいに決まってる。
だけどよ、そこで俺の好奇心に火がついちまったんだよ。
「本当にホットなコカコーラが出てくるのか」って。
ただただ表記プレートを変え忘れただけかも知れねぇ。そんな事はよくある事だ。冷たいコーラが出てくるんなら、喉の渇きも癒せるし、俺の好奇心だってそこそこ満たされるってもんだ、悪い選択じゃねぇ。
だがよ、そこでもし、まじでホットなコカコーラが出てきたらどうするよ?
それはそれで相当にヘイトフルだぜ?
こんな晴れの中、フリースまで着込んで走り抜けちまった、とてもじゃないがホットな飲料なんて飲めやしねぇ。
しかもよりによってホットなコーラだ?あのパチパチ炭酸が熱い液体と一緒に口内に広がると思うと恐ろしいなんてもんじゃねぇ。きっとあれだ、キムチ食った後に熱いお茶のんでヒリヒリするみたいになるんだぜ?
何よりホットが出てくるかも知れねぇって事を分かった上で買ってるんだ、そんな最悪な事態に陥っても言い訳もできねぇ。
だがよ、俺も男だ。ここまで無茶振りされて黙ってスルー出来る程やわじゃねぇ。
わかってんだ、肉体が欲してるのはアクエリアスだっつうのは。
だけどこれは理屈じゃねぇ。男と男の真剣勝負ってもんだ。
しかもだんだん、そんなホットなコカコーラという奴がどれほどのもんかを試してみたくもなって来たぜ。これはもうソウルな問題だ。いうなれば、強い奴が自分より強い奴を求めちまうみたいなもんかな。
だから俺は自分の「欲しいもの」のボタンには触れる事は出来なかった。当然、そのホットなコカコーラのボタンを鋭くチェストしてやったぜ。
ガコン!
くぅ!この瞬間がたまらねぇな!さぁ正体を暴いてやるぜ!
俺はその掛け声と共に自販機の取り出し口に手を突っ込んださ。
俺は高揚感を覚えたね。
だが次の瞬間、手に伝わってきたのは、指先が痺れるほどの「冷たさ」だったさ。
要するに、普通のコカコーラだ。
「世の中そう簡単に面白いことには巡り会えない」
死んだじっちゃんがよく言ってたっけなぁ。
俺は喪失感を覚えたね。
ついでにこいつキンキンに冷えすぎだぜ。腹痛くなってきやがった・・・。
チクショウ・・・。
旅人
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